いわゆる「先進国」と呼ばれる国々は、新型コロナウイルス危機からの出口に向けて巨額の財政支出に動き出しています。
我が国では、岸田内閣が今月中旬にも数十兆円規模の経済対策をとりまとめる予定ですが、PB黒字化目標があるかぎり残念ながら期待されるような対策にはならないものと推察します。
PBとはプライマリー・バランス(基礎的財政収支)のことで、歴代内閣は愚かにもこれを黒字化しようとしています。
因みにPB黒字化目標とは「借金しない目標」と同義です。
つまり、起債せずにすべての行政支出を税収だけで賄おうという考え方です。
そこには「税収は財源…」という間違った考え方が背景にあることが解かります。
昔から「入るを量りて出を制す」という言葉がありますが、これはあくまでも家計や企業など通貨発行権を有しない組織に通用する言葉であって、けっして政府財政にあてはめてはならないものです。
にもかかわらず、我が国では事もあろうにこれを国家財政をあずかる財務省が実践しています。
過日には、現役の財務次官(財務省の事務次官)が『文藝春秋』に「財政破綻論」を寄稿して話題になりました。
省内官僚の最高位にある事務次官が、例によって「いま財政を健全化しなければ必ず将来に禍根を残す…」と警鐘を鳴らしているわけです。
ところが実際には、こうした「財政破綻論」や「財政健全化論」こそが我が国の財政健全化の妨げになっているという事実をご存知でしょうか。
国際基準では、財政健全化の指標はその国の「政府債務/GDP」とされています。
なので、これを縮小させることこそが正しい意味での財政健全化です。
どうしても財政を健全化させたければ政府支出の拡大が必要になります。
なぜなら、政府が借金をして支出を拡大すると、たしかに政府債務は増えますが、それ以上にGDPが拡大するからです。
政府の財政出動にはGDPへの乗数効果というものがあり、例えば乗数効果を「3」とすると、1兆円の政府支出でGDPを3兆円(1兆円×3)押し上げることができます。
私は、現在の日本の乗数効果は3〜4程度はあると考えています。
つまり、分子の政府債務以上に、分母のGDPが増えるわけです。
2009年のユーロ危機の際、財政危機に陥ったユーロ加盟諸国は健全財政を目指して緊縮財政を行ったのですが、政府支出の削減がGDPを押し下げ深刻な不況に陥ってしまい、結果として「政府債務/GDP」は悪化してしまったのです。
緊縮財政が財政を不健全化した典型的な事例です。
一方、日本の場合、「政府債務/GDP」が200%ちかくにまで達したのは、政府の緊縮財政によりデフレ経済(総需要の不足経済)が長きにわたって放置されてきたからです。
デフレで名目GDPが増えない。
名目GDPが増えないから税収も増えない。
税収が増えないから「財政規律がぁ〜」という声が高まって、また財政支出が引き締められる。
財政支出が引き締められるからデフレが深刻化する、という具合に、1990年代以降、我が国はこの馬鹿げたスパイラルに陥っているわけです。
米国では、今や主流派経済学者たちでさえ「積極財政こそが、財政を健全化させる」と主張しています。
日本の主流派経済学者たちが財務次官の「財政破綻論」を支持しているのとは大違いです。