地政学的脅威が高まっても日本は政策転換できないのか!?

地政学的脅威が高まっても日本は政策転換できないのか!?

今日は衆議院総選挙の投票日です。

天気予報は、曇のち雨。

過去の投票率をみますと、意外にも晴天の日より本日のようなどんよりとした天気のほうが投票率が高くなっています。

低投票率だった前回に比べ投票率が上がることは確実ではないでしょうか。

とはいえ、投票率の上昇が「良い政治」に結びつくかどうかは別の話ですが…

さて、今回の総選挙の最大の特徴は、ようやく積極財政(政府支出の拡大)の必要性が議論の俎上に乗ったことです。

私の選挙区(神奈川県第9)にかぎって言えば、個々の候補者からは財政政策についての言及はほとんど聞こえてきませんでしたが、政党レベルでは政権与党が財政支出の拡大を主張しはじめたことは一つのエポックメイキングかもしれません。

ただ、自民党の選挙広報には「機動的な財政出動」と記載されており、それはあくまでも機動的であって積極的ではないのかもしれず、結局は「選択と集中」という緊縮財政路線が継続される可能性も大です。

対する野党の政策をみても、あるいは与党の公明党もしかりなのですが、その経済政策をみますと主として給付金や補助金などの所得移転系による支出ばかりが羅列されています。

むろん、コロナ禍に見舞われている今、それはそれで悪いことではないのですが、経済基盤を確立する産業政策及びマクロ経済政策としては貧弱です。

例えば立憲民主党などは「実質賃金の引き上げや中間所得層の再構築」の必要性を訴えていますが、であるならばなによりもデフレ経済を払拭しなければなりませんし、構造改革によって破壊されてきた雇用法制なども元に戻さなければなりません。

少なくともデフレ経済を払拭するためには、基礎的財政収支(PB)赤字の拡大が不可欠な条件なのですから、その政策には「PB黒字化目標の凍結」がなければ説得力に欠けます。

与党第一党も野党第一党もともに堂々とそれを言えないのは、未だ我が国には有り得ない「財政破綻論」が幅を利かせているからだと思います。

現役の財務官僚が堂々と文藝春秋にツッコミどころ満載な「財政破綻論」を寄稿するほどです。

奇しくも、ちょうど一年前の今頃に米国大統領選挙が行われました。

新しく誕生したバイデン政権は、トランプ政権以上の積極財政を宣言し、かつ大規模な経済政策を実行しています。

人事も一新され、例えば大統領補佐官(国家安全保障担当)に抜擢されたジェイク・サリバンは「米国は新しい経済哲学を必要としている」という論考を発表するなど、過去40年間の「新自由主義」を改め、外交・安全保障と一体化した新たな経済政策の必要性を訴えています。

どこかの国の財務次官とはえらい違いだ。

因みにサリバン大統領補佐官は「政策担当者は米国の政府債務よりも、過小投資の方が、国家安全保障の脅威であることを認識すべきだ」とも述べています。

むろん、サリバン大統領補佐官の示した考え方が、バイデン政権の積極財政に影響を与えているわけです。

ゆえに米国では40年ぶりに産業政策が復活したと言われています。

歴史から学べることは、国策の大転換は常に地政学的脅威によってもたらされるということです。

米国の場合、南北戦争を戦ったリンカーン大統領時代の『アメリカン・システム』、東西冷戦を戦うことになったアイゼンハワー大統領時代の『州間高速道路網』、ベトナム戦争と戦ったジョンソン大統領の『偉大なる社会政策』などの経済政策がそれでした。

現在の米国にとって国家安全保障上の最大の脅威は、むろん中国です。

今や彼の国の経済力は、2028年には米国のGDPを追い抜く勢いです。

それを阻止するため、40年ぶりに米国は産業政策を復活させたと言っていい。

既に世界第2位の経済大国となった中国が、米国が規定した条件で国際秩序に参加するはずもない。

とりわけ2008年のグローバル金融危機以降の中国指導部は明らかに国際秩序を作り替えることを望んでいます。

2012年に総書記に就任した習近平氏は「中国は世界の舞台の中心に近づいている」と述べて以来、自己主張の強い外交戦略を展開し、今では「世界は北京の方針に適応しなければならない」とさえ言っています。

民主化を求める香港を締め上げているだけでなく、南シナ海や東シナ海での軍事プレゼンスを高め、あるいはオーストラリアに対する圧力路線をとり、またはインドとの国境紛争でも軍事力を行使しており、欧米民主主義に対する挑戦心をも強めています。

まさに、これらの地政学的脅威こそが、米国に政権交代を伴う政策大転換をもたらしたのです。

一方、我が日本国はどうか。

尖閣諸島では領海侵入を繰り返されつづけ、先日も中国とロシアの軍艦10隻が合同軍事演習の名のもとに津軽海峡と大隅半島を通過するなど日本を取り巻くように航行されました。

北京の軍事外交上の挑戦的な振る舞いはとどまるところを知りません。

因みに、9月28日に北朝鮮が日本海にむけて発射したミサイルは極超音速ミサイルであり、現在の日本にこれを迎撃する術はない。

地政学的脅威が高まり続けても、未だ我が国の財政政策、産業政策が大きく転換されていないのは誠に残念です。

といって、今回の総選挙がそのきっかけになるとは到底思えません。