ここのところ、原油、ガス、石炭などのエネルギー資源の価格が高騰し、国民生活から企業活動に至るまで日本経済に大きな影響を及ぼしています。
原油はNY市場で1バレル80ドルを超え、7年ぶりの高値を更新しています。
去年の春ごろにはコロナの影響で買い手がつかず市場初めてのマイナス価格を記録したのに比べ、需要が一気に膨らんでいます。
LNG(液化天然ガス)もアジアやヨーロッパで今年はじめころの4倍近くにまで値上がりしているほか、日本の火力発電所で使われている石炭も市場最高値を記録しています。
この影響でコロナによるダメージから徐々に回復を見せていた世界経済は、各地でエネルギー危機が起きるという新たな試練に直面しています。
まさに不確実性の時代です。
中国では電力の供給制限が行われ、一部の地域では街の信号が消えたほか、日本企業の現地工場も操業停止に追い込まれる事態に至っています。
とりわけ中国は、オーストラリアとの外交関係悪化により豪州産石炭の輸入を停止したことで深刻な燃料不足に追い込まれていたことも大きい。
またヨーロッパも冬を前にして深刻なガス不足に悩まされているらしい。
ロシア産のガスの供給を頼りにしているものの、その量が予想より少なく、LNGをめぐってアジアの国々と争奪戦になっています。
さらに米国では、石油関連施設が集中している地域をハリケーンが直撃したこともあってガソリン価格が上昇しています。
これら世界的なエネルギー受給の逼迫によって最も影響を受けるのが資源輸入国の我が日本国です。
電気・ガスの料金が3ヶ月連続で上昇しています。
デフレにより給与水準が増えないなかでの上昇は、むろん実質賃金を更に引き下げ生活を困窮させます。
なによりもこの冬の電力受給が、過去10年間で最も厳しくなることが予測されています。
このように、エネルギー価格が世界的に上昇した背景には何があるのでしょうか。
まずは、①コロナからの回復による需要増、②各国の脱炭素化政策、の二つが短期的な要因としてあげられると思います。
去年はコロナ禍で企業の生産活動が大きく抑制されたうえ、暖冬だったこともあって原油やLNGの需要が落ち込みました。
このため今年にむけては生産を抑える動きがみられました。
ところがここにきて、おそらくはワクチン接種の世界的普及によってコロナ禍が鎮静化したこともあり、各国で本格的な経済活動が再開されたことで在庫が一気に足りなくなったとみられます。
これに加えて各国が環境対策、即ち脱炭素化政策を推進していることで、原油や石炭からLNGや風力、水力、太陽光といった、いわゆる再生エネルギーにシフトする動きが相次ぎました。
しかし、頼みのLNGの生産が急激に増えた需要に追いつかなかったことで、エネルギー価格が跳ね上がるいわばガス・ショックが発生したわけです。
風力、水力、太陽光という再生エネルギーとやらが、いかにあてにならないかがよく解かります。
天候不順による渇水や風力不足により、思ったほどの発電量を確保できていません。
そこで各国は慌てて原油や石炭を確保し使おうとしているものの、今度は産油国が先行きを懸念して増産に躊躇していることからエネルギー価格が軒並み跳ね上がるというかたちになっています。
前述のとおり我が国では、電気代やガス代が3ヶ月連続で値上がりしています。
例えば、ガソリン料金は16%(前年比)、灯油が20%(前年比)も値上がりしています。
第一生命経済研究所の試算によると、一世帯あたりの年間負担額は前年比で4万6,000円も増えるとのことです。
因みに、原油高を背景に我が国は2ヶ月連続で貿易赤字になっています。
中国から輸入される部品などもエネルギー危機により値上がりし製造業のコストが嵩んでいることから、企業業績への悪影響が心配されます。
いま衆議院議員の総選挙が行われていますが、こうした我が国のエネルギー安全保障の脆弱性について具体的に言及している候補者が見当たらないのは残念です。
そのことについては今にはじまったことではないので仕方ありませんが、もう一つの懸念は、電気代やガス代が上がったように世界的なエネルギー価格の上昇により、業種によっては多少のコストプッシュ型インフレ懸念があります。
そのとき必ず「政府が財政規律を緩めたからインフレになったんだぁ〜」というデマを流す人たちが現れます。
今から言っておきますが、それはデマです。