去る10月15日、岸田内閣は『新しい資本主義実現会議』の設置を閣議決定しました。
会議の本部構成員をみると、本部長には内閣総理大臣、副本部長には所管大臣と官房長官、本部員は他の全ての国務大臣とのことで、今日にも初会合が開催されるようです。
さて、閣議決定書には、「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」という設置コンセプトが謳われています。
それにつけても、日本人はどうしてこうも「新しい〇〇」が好きなのでしょうか。
この30年間で学んだことですが、「新しい…」という形容詞がついた政策に概ねまともな政策はありません。
新しい…資本主義 !?
新しい…社会の開拓 !?
維新とか、刷新とか、新風とか…
何でもかんでも「新」をつければいいってもんじゃない。
因みに、これまでも政党名に「新」がついた政党で長く続いた政党はありません。
尊敬する田中角栄先生がこよなく愛したウイスキーに「オールド・パー」というのがありますが、商品名に「オールド(古い)」がつくあたり、実に渋い。
古きもの(古典)の中にこそ良きものや真理がある、という真っ当な思想というかセンスを感じます。
自民党総裁選挙を通じて、岸田総理が「小泉内閣以来の資本主義は間違っていた」という認識をお持ちになられていることは知っています。
それはそれで共感できます。
ただ、正しくは「小泉内閣以来の…」ではなく、時代はもっと遡って中曽根内閣以来、いや大平内閣以来と言ったほうが正確です。
少なくとも1980年代から資本主義の形は変わってしまったのですから。
むろん、日本だけでなく世界的に変わりました。
それを比較したのが冒頭の表です。
表は、1974年までのブレトン・ウッズ体制における経済成長率と、1980~2009年までのワシントン・コンセンサス体制における経済成長率を比較したものです。
ブレトン・ウッズ体制とワシントン・コンセンサス体制では、明らかに資本主義の形が異なります。
ブレトン・ウッズ体制は「ナショナルな資本主義」で、ワシントン・コンセンサス体制はまさに「グローバル資本主義」でした。
ワシントン・コンセンサスとは、米国政府と世界銀行とIMF(国際通貨基金)との間で成立した合意のことを指します。
その合意こそ、国家の枠組みを取っ払い、カネ、ヒト、モノ、サービスの移動の自由を最大化するためのボーダレスなグローバル市場をつくり、新自由主義に基づく構造改革を世界的に進めていこうというものでした。
合意機関である米国政府、世銀、IMFの本拠がワシントンに置かれていることから「ワシントン・コンセンサス」と呼ばれています。
ワシントン・コンセンサスによって各国の「ナショナルな資本主義」が破壊されていったのです。
結果、表をご覧のとおり、ナショナルな資本主義体制の時のほうが経済成長率は高く、人々は豊かだった。
ワシントン・コンセンサス = 新自由主義(ネオリベラリズム) = 新古典派経済学 =マーケット・ファンダメンタリズム、これらはすべて同じ概念です。
私が総理に望むのは「新しい資本主義」ではありません。
むろん、ブレトン・ウッズ体制とは異なった形でいい。
とにもかくにもナショナルな資本主義を取り戻してもらいたい。