PB赤字の拡大なくして成長なし

PB赤字の拡大なくして成長なし

家計や個人は、収入に応じた支出を心がけねばならない。

借金をするにしても、むろん収入の範囲で返済できる額に納めねばならない。

しかしながら、政府はちがう。

家計や個人とは異なり、国家を運営する政府は需要と供給に応じた支出を心がけねばなりません。

しかも政府の場合、借金できる規模は収入ではなくインフレ率に依存する。

財務省の矢野次官や羽鳥モーニングショーの玉川氏らには、これらのことがどうしても理解できないらしい。

因みに、需要と供給に応じた支出とは、需要が不足するデフレ経済期においては財政支出を拡大すべきであるし、極端な供給不足から生じるインフレ経済期においては財政を引き締めることです。

これが、アバ・ラーナーの言う「機能的財政論」です。

羽鳥モーニングショーの玉川は「赤字国債は絶対にダメ…」と言いますが、赤字国債であれ何であれ政府にとっての債務残高とはそれ即ち「通貨発行高」にほかならない。

経済規模に応じて通貨量が増えていかなければデフレ化してしまいます。

一方、財務次官の矢野は、増え続ける政府債務残高と増えぬ税収との差を「ワニの口」と定義し、「日本はワニの口が広がり続けているぅ〜」と要らぬ警鐘を鳴らしています。

嘘も休み休み言って欲しい。

米国だって英国だって、少なくとも日本のような主権通貨国では、常にワニの口は広がり続けています。

っていうか、そんなもの広がって当然でしょ。

それなのに矢野次官は「日本だけがぁ〜」みたいに平然と嘘を言う。

例えば、明治新政府がスタートして以来、我が国政府の負債残高は今や3790万倍(名目値)以上に増えています。

もしも「政府債務残高が増え続けると破綻する」のであれば、とっくに日本政府は破綻していなければおかしいではないか。

そもそも2002年5月2日、財務省は米国の格付け会社に対して「日本のように自国建て通貨で国債を発行している国にデフォルト(債務不履行)などありえない」という意見書を提出しています。

その意見書は未だ財務省のHPに掲載されています。

自分の属する組織が正式に公言しているにもかかわらず、現職の事務次官(省内官僚の最高位)がそのことを否定する論文を文藝春秋に役職名をもって掲載したわけです。

私が国会議員なら「どちらかを訂正しろ!」と、国会で財務大臣に詰め寄ることでしょう。

むろん訂正すべきは矢野次官の「財政破綻論」の方ですが。

さて、上のグラフをご覧頂きたい。

グラフは、基礎的財政収支(以下、PB)が経済(名目GDP)に与える影響を示しています。

因みに、現在もなお政府が行っているPB黒字化目標とは「国債発行抑制目標」と同義で、国債を発行するとPBは赤字化し、国債を抑制するとPBは黒字化します。

名目GDPとは額面でみたGDPのことで、要するに「政府」「民間」「海外」のそれぞれの経済主体が使ったおカネの総量です。

グラフの左軸はPBの対GDP比で、右軸は前年の名目GDP成長率です。

ご覧のとおり、二つの折れ線グラフはほぼ同様の動きをしており、相関係数は高く0.65(かなりの相関)です。

つまり、こういうことです。

今の日本は長引くデフレで名目GDPが増えず成長していない。

よって税収が減ります。(税収は名目GDPに相関する)

税収が減るから、矢野の言う「ワニの口」が広がる。

ワニの口が広がると「日本は財政破綻するぅ〜」という圧力が強まって、国債発行を抑制しPBを黒字化させようとする。

PBを黒字化させようとして強引に歳出を抑制するから、また余計にデフレ化して名目GDPが増えない。

名目GDPが増えないから税収が増えない。

税収が減るからまたPBを黒字化しようとしてまた名目GDPが増えない。

というように、今の日本は馬鹿げたスパイラルに陥っています。

名目GDP(税収)を増やしたかったら、PBを更に赤字化することです。

即ち、今の日本は「ワニの口」の広がりが足りないのです。