今日、岸田内閣が発足します。
自民党総裁選を勝ち抜いた岸田さんは、基本的にはアベノミクスを踏襲したうえで富の再分配や所得の拡大に重心を置くとしつつ、財政健全化の旗は降ろさないとしています。
ここでいう「財政健全化」という言葉の定義が、あくまでもプライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化目標を指すのであれば、大いなる政策的矛盾です。
プライマリーバランスとは、公債費を除いた政府の歳出額を税収の範囲内におさめることです。
要するにプライマリーバランス黒字化目標とは「国債発行抑制目標」のことなのですが、このお粗末な目標があるかぎり、政府は歳出を拡大することができません。
総裁選挙で岸田さんは「2025年までの黒字化にはこだわらない」としていますが、そもそもプライマリーバランスありきの財政政策こそが大きな間違いであることに気づいてほしい。
プライマリーバランスありきではなく、実体経済の需給バランス、即ちインフレ率ありきの財政政策こそが正しい。
「2025年までの黒字化にはこだわらない」ではなく、せめて「むこう10年間は凍結だ」くらいは言ってほしかった。
さて、岸田さんが長を務める「岸田派」は、あの“所得倍増計画”でおなじみの池田隼人元首相の派閥です。
ご承知のとおり、池田内閣の“所得倍増計画“によって戦後日本は驚異的な「高度経済成長」を成し遂げました。
その池田内閣の政策ブレーンを担っていたのが池田首相側近の下村治(しもむら おさむ)さんです。
私が申し上げるまでもなく、下村治さんが高度経済成長に果たした役割は大きい。
池田内閣は下村治さんの助言のもとに積極財政(財源は国債発行)を断行しました。
しかしながら現在と同じように、当時もまた下村さんに対し「国債発行は民間貯蓄を圧迫して金利が高騰する」だの「高度成長は高インフレを招く」だのという批判が繰り返されました。
それに対し下村さんは「政府の赤字財政がそれと同額の民間貯蓄を増やす」「生産能力が高まるので高インフレにはならない」と反論します。
凄いですね、下村さんの反論はまさにMMT(現代貨幣理論)そのものです。
結局、下村さんが言ったとおり金利の高騰など起こりませんでした。
それに、政府がインフラ投資を拡大したことで国民経済の生産能力も向上しました。
なお政府による長期にわたる歳出拡大が需要増への期待を高め、企業投資を拡大させました。
日本中の企業が投資をしたのですから生産能力(供給能力)は必ず向上します。
ゆえに下村さんが主張されたとおり、この時期の日本経済は高インフレになることなく、実質GDPの平均成長率10%、名目GDPの平均成長率15%、平均インフレ率5%という驚異の成長を実現したのです。
因みに、今なお日本経済新聞社は「規模ありきの予算から脱却できなければ、経済が停滞したまま政府債務だけが膨らみかねない」という記事を書いて政府支出の拡大に異を唱えています。
予算規模が足らないからこそ、いつまでたっても経済が停滞していることを、この新聞社はどうしても理解できないらしい。
いつも言うように、政府支出の拡大なくしてデフレ経済(需要不足経済)を払拭することはできませんので、岸田内閣が掲げる「国民の所得を増やす」ことなど絶対に不可能です。
岸田内閣は、とりあえず10兆円規模の経済対策を組むようですが、どこまでプライマリーバランスを赤字にできるかがポイントです。
下村治さんに匹敵する政策ブレーンが岸田内閣の側近にいることを切に願います。