今日の事態を招いた遠因と近因

今日の事態を招いた遠因と近因

東京、神奈川などに出されている緊急事態宣言は、19の都道府県で期間が延長されることになりました。

新規陽性者の数は減少していますが医療現場の逼迫状況は改善されておらず、宣言解除に向け医療提供体制の立て直しが大きな鍵になっていることに変わりはありません。

専門家会議は緊急事態宣言を解除する際の指標に、自宅で療養している人や療養先が見つからず調整中の人の数を新たに加えましたが、その数は第5波になって大幅に増えています。

9月1日時点で、全国で自宅療養などがおよそ13万5千人、調整中の人が2万7千人あまりもいるなど、充分な治療をしてもらえない人たちが多くいるのが実状です。

医療の予断を許さない状況が続いています。

今後、感染が再拡大しないようにする必要がありますが課題は多い。

1つは、学校の再開です。

夏休み明けをきっかけに感染者が増加しないか、という点です。

オンラインの授業や分散登校などが行われていますが、あわせて体調に異変を感じたときには子供も教職員も学校を休むことを徹底させることが重要となります。

また行動範囲の広い大学生も体調管理や感染対策に注意することが求められています。

次いで2つ目は、感染力が強いデルタ株に見合った徹底した対策ができるかどうかです。

従来のウイルス(アルファ株)では家族の一人が感染したとき家庭内で他の一人に感染させる程度でしたが、デルタ株では家族全員が感染するケースが多くなっていると言われています。

また、デパ地下など大規模商業施設についてクラスター(集団感染)が報告された事例をみてみますと、一時的に客が蜜になる時間帯があったほか、従業員が食事の際にマスクを外して会話をしていたケースがあったようです。

売り場が蜜にならないように入場制限をするなど、業界のガイドライン見直しの必要性が指摘されていますが、むろんこれは商業施設に限らないと思われます。

従来のウイルス(アルファ株)では感染が広まらなかった経験から「これくらいは大丈夫だ!」と思っている行動でも、デルタ株では感染拡大につながる恐れがあります。

専門家会議が「対策をこれまで以上に撤退しなければならない」と訴えているのも、きっとこれらの理由があってのことでしょう。

3つ目は、今後の感染状況を見通すうえで大きな懸念になっているのが新規陽性者数の下げ止まりです。

東京都でみてみますと、過去の第2波のピークを過ぎたあと一日の感染者がおよそ150人まで減少したところで下げ止まりました。

第3波のあとはおよそ250人、第4波はおよそ380人のところで下げ止まりました。

今回、第5波で一日の新規陽性者数が充分減らずに高いレベルで下げ止まりが起こってしまった場合、日々の新規陽性者数は累積され、重症者数や自宅療養などがなかなか改善しなくなりますので医療体制の立て直しそのものが困難になります。

最大の問題は、ワクチンの効果によって重症者数を少なく抑えようとしているのにそうできていないことです。

ワクチンには感染や重症化を抑制する高い効果が期待されています。

例え感染者がいても、ワクチン接種が進んでいれば周囲に感染が広まるリスクは大幅に減ります。

その上で保健所が濃厚接触者の調査などを行って更に感染拡大を抑え、重症、中等症、軽症など症状に応じた医療を提供していきます。

このとき、ワクチン接種により集団免疫を獲得することで重症化する人をより少なくすることができれば医療逼迫を回避することが可能になります。

しかし残念ながら、現実はそうはなっていません。

重症患者は日に日に増えてしまい、本来は入院すべきコロナ患者が自宅療養を強いられ命を落とされる事態にまで至っています。

その遠因は、1990年代後半からはじまった新自由主義(ネオリベラリズム)に基づく構造改革によって、我が国の保健所や病床が減らされてきたこと。

近因は、我が国の為政者たちの怠慢、そして無責任な学者や専門家たちのために、日本でのワクチン接種の開始時期が遅れてしまったことです。

そのために、まさに今どれだけの日本国民がひどい目にあっていることか。