間違った理論のワナ

間違った理論のワナ

今週の金曜日(8月27日)、世界の中央銀行トップが集まる「ジャクソンホール会議」が米国で開かれます。

グローバル投資家たちの専らの関心事は、米国FRBのテーパリング(量的緩和の縮小)時期のようで、とりわけパウエル議長の発言が注目されています。

一方、今朝の日本経済新聞に、同社のコメンテーターである梶原誠氏が、ぜひともジャクソンホール会議でセントラルバンカーたちに見せたいチャートがある、という記事が掲載されていました。

そのチャートとは、イングランド銀行(英国中銀)の元チーフエコノミスト、アンドリュー・ホールデン氏が作成した『5000年チャート』のことです。

ホールデン氏は、イングランド銀行の研究を基に5000年間の長短金利をそれぞれ折れ線グラフにしました。

そのうえで「現在の金利水準は5000年来の低水準だが、これほどの国債バブル(低金利)を可能にしたのは中央銀行が英国債を購入してきたからだ」と説明しています。

これを日本経済新聞のコメンテーター、梶原誠氏が「5000年来の低金利には大きなワナがある」として警鐘を鳴らす記事を書いています。

梶原氏が言う「ワナ」とは、どうやら低金利による副作用のことで、具体的には…
①金余りが生む金融危機
②政府債務の拡大
…の二つです。

まず①については、カネ余りはバブルとその崩壊を生むから低金利は危険だ、という。

つまりは緩和マネーが金融経済にまわってバブルとなり、やがて金融危機に発展する、と言いたいのでしょう。

ですが、そもそも低金利が問題なのは、とくに日本の場合がそうですが、長引くデフレ経済により企業投資や民間消費が乏しく資金需要が少ないからです。

デフレが払拭され、企業投資や民間消費が喚起されれば資金需要が高まり自ずと金利は上昇していきます。

低金利にしている根本はデフレであって、そのデフレが放置されていることそが大問題であることに、残念ながらこの新聞社もコメンテーターも気づかない。

次いで②の政府債務の拡大については、もはや何を言いたいのかすら私には理解し難い。

氏によると「低金利だからといって政府が財政支出を拡大しすぎると政府債務が膨らみ、やがて高い金利を要求される心配がある」という。

要するに「政府の国債発行とは、誰かの貯蓄からの借り入れだから必ず金利が上昇する」と言いたいようです。

いわゆる貨幣のプール論、もしくは外生的貨幣供給理論ですね。

あきらかな貨幣観の間違いです。

梶原氏にはぜひとも知って頂きたいが、政府の国債発行は民間貯蓄の制約は受けません。

むしろ政府による国債発行と財政支出の拡大が民間貯蓄を増やしています。

それでいて氏は「いまは日銀が国債を購入しているから低金利でいられるのだ」とも言う。

つまり氏は、一方で金利が上昇する危険性を指摘しながら、他方で日銀の国債購入によって金利が下がることにも異を唱えているわけです。

いったい何が言いたいのでしょうか。

おそらく間違った理論のワナに嵌っているのは梶原氏ご自身ではないかと…

インフレ率が許すかぎりにおいて政府の通貨発行(日銀の国債買取)に上限はなく、政府による歳出拡大で需要を創造しないかぎりデフレを払拭することは不可能です。

事実は、ただそれだけです。