1990年代以降、この国に巣食ったネオリベラリスト(新自由主義者)たちは、政官財の各分野において「規制緩和」の必要性を説いてきました。
「日本は規制が多く常に閉鎖的で市場を閉ざしている…だから経済成長が鈍化している」というのが彼ら彼女らの常套文句です。
因みに日本経済が成長していないのは、バブル崩壊に伴うバランスシート不況のなかで政府が緊縮財政を断行したからであって、規制とは無関係です。
むしろ、供給過多のデフレ経済下の中で次々と各種の規制を緩和してしまったがために、かえってデフレが深刻化し、中間所得層は破壊され、貧富の差が拡大してしまいました。
例えば、雇用規制を緩和したことでパソナのようなレントシーカー・ピンハネ事業者は儲けましたが、派遣社員として働く人たちの実質賃金が下がりに下がり続けたことは周知のとおりです。
ネオリベラリストたちの一つの特徴は「米国は規制の少ない国」という錯覚に陥っている点です。
だからいつも「米国では〜」とやる。
さて、その米国では、暗号資産(仮想通貨)に対する規制強化の動きがでています。
実は一般的に米国の規制は日本よりも複雑です。
それは規制の権限が連邦政府と州政府で分かれていることにもありますが、例えば金融ビジネスの規制などは、業種ごとに細かく規制機関があります。
銀行、証券、デリバティブなど、それぞれに規制機関があるわけですが、保険に至っては州ごとに規制される業種であるため、50の州に個別に規制機関が存在し監視しています。
ところが、暗号資産の実態については、規制機関が存在しないことから誰も把握していません。
暗号資産の交換所が、どこの規制機関の管轄にも属していないのは意外です。
そこで、米国証券取引委員会(SEC)が規制に乗り出しているわけです。
規制づくりの陣頭に立っているのが、SECのゲーリー・ゲンスラー委員長です。
ゲンスラー委員長は、とりわけ「証券」とみなされる暗号資産に対する規制づくりを目指しているようですが、複雑なことに、米国では法的にコモディティとみなされる暗号資産もあれば、証券とみなされる暗号資産もあります。
それに、規制を免れたい取引業者たちは「暗号資産はコモディティでもなく証券でもなく、たんなる通貨だ」と言い張っています。
これは米国の法律の真価が問われる複雑な問題でもあります。
規制を法的に裏付ける根拠の多くは判例として存在しているだけで、実際に法律で規制されているわけではありません。
ゲンスラー委員長は、何十年か前の最高裁判例に基づいて「証券と定義できる暗号資産を規制することは可能だ」と主張しており、また氏は、暗号資産の交換所がSECの管轄なのか、それともCFTC(商品先物取引委員会)の管轄なのかの区分けや、あるいは暗号資産の一般規制を制定できる議会に対しても協力を求めています。
とりわけ現在は、暗号資産の取引所(交換所)では、①匿名性での利用者が急増していること、②利用者保護が不十分であることなどが主たる問題点とされているために、まずは交換所の規制が急務だと考えているようです。
むろん、証券とみなされる一部の暗号資産を売買する交換所はSECが管轄すべきだと言っています。
ゲンスラー委員長はCFTCでもトップを務めたこともあり、この分野(金融・商品)に精通されているとのことです。
氏は「私は技術に中立的だ」として上で、次のように述べています。
「信号機(交通規制)がなければ、自動車が普及することはなかった」
なるほど、規制に対する氏のポリシーが実によく顕れています。