世の人は、次の二種に大別されます。
①労働賃金などの所得で暮らす人たちと、②株式配当などの資本収益で暮らす人たちです。
前者がGDPなど実体経済に依存しているのに対し、後者は証券市場など金融経済に依存しています。
とりわけ実体経済は、インフレ率と賃金がマイルドに上昇していくのが理想です。
なぜならそれこそが所得で暮らす人々が「豊かになっていくこと」だからです。
因みに、インフレ率の上昇とは、モノやサービスの価格に対して通貨の価値が下落することを意味します。
信じがたいことかもしれませんが、実は通貨価値がマイルドに下落していく経済こそが国民経済(GDP)の理想なのでございます。
一方、資本収益で暮らす人々はマイルドとはいえインフレ率の上昇を好ましく思いません。
なぜなら前述のとおり、インフレ率の上昇は通貨価値の下落を意味することになるため、彼ら彼女らの保有する金融資産を目減りさせることになるからです。
金融経済を生業としている、例えば証券会社のエコノミストたちが、ここにきて米国のインフレ率の上昇を過度に問題視しているのはそのためです。
ご承知のとおり米国では、バイデン新政権によって大型経済対策(バイデン・プラン)が示され、政府の積極財政が中長期的にGDP(国民経済)を押し上げていくことの期待が高まっています。
その成長期待が米国国民のモノやサービスを購入する意欲が高め、インフレ率を上昇させているのだと思われます。
とはいえ、FRB(連邦準備制度理事会)は「昨今のインフレ率の上昇は一時的な現象であり、急騰する可能性は低い」との見解を示しています。
私もそう思います。
その証拠に、米国の長期金利はほとんど上昇していません。
企業が本格的に景気の先行きを「良し」としているのであれば、企業は各種投資のためにもっともっとおカネ(長期資金)を借りるはずです。
ゆえに企業投資が増えはじめるまでは、即ちインフレ率のみならず長期金利までもがマイルドに上昇しはじめるまでは本格的な景気回復とは言い難い。
であるからこそFRBは「今は未だテーパリング(量的緩和の縮小)など考えていない」としているわけです。
さて、正常な経済情勢下においては、政府、企業、家計という経済主体のなかで借金すべき経済主体は「企業」です。(デフレ経済下は政府)
企業とは、投資(研究開発投資・設備投資・人材投資)をすることで生産性を向上させ収益を増やしていく経済主体です。
その結果、恩恵を享受するのが国民であり家計です。
上のグラフのとおり、我が国の経済がデフレに突入する前までは、日本企業の債務残高は米国のそれをグロス(実数)で大きく上回っていました。
ところが、1995年に武村蔵相(村山内閣)が愚かにも『財政危機宣言』を発し、その後の橋下内閣が1997年から超緊縮財政をはじめてしまいました。
我が国がデフレ経済に突入することになったのは、それからのことです。
むろん、未だデフレです。
「愚かにも…」としたのは、ご承知のとおり当時においても今日においても我が国には、深刻な財政危機など存在していないからです。
為政者たちの誤った貨幣観が、この種の馬鹿げた「宣言」をさせたのです。
グラフを見ると顕著ですが、政府が『財政危機宣言』を発した1995年から既に日本企業の債務残高は頭打ちになっています。
もしも『財政危機宣言』と、その後の緊縮財政がなければ、日本企業の債務残高は米国と同様に右肩上がりで伸び続け、日本のGDP(日本人の所得)は現在の約3倍にまで達していたことでしょう。