中米エルサルバドルのブケレ大統領が、暗号資産、いわゆる「仮想通貨・ビットコイン」を法定通貨として採用する法案を議会に提出したところ、エルサルバドル議会は賛成多数で承認したとのことです。
ビットコインが法定通貨として採用されるのは、世界初のことです。
これまでエルサルバドルは米ドルを法定通貨として使用してきましたが、こんどはビットコインも法定通貨に加える、というわけです。
ブケレ大統領は「海外在住の国民がエルサルバドルに送金する際にビットコインが役立つ」と言っています。
たしかに海外送金の際、ビットコインを利用すると余計な手数料がかからない。
例えば、日本国内から3万円をEUにいる友人に送金する場合、複数の銀行を経由しなければ友人の手元に3万円分のユーロは届きません。
このとき、複数の銀行を経由するごとに安くない手数料が取られていきますが、ビットコインによる送金であれば手数料は取られません。
ただ、世論調査によると、エルサルバドル国民の4分の3以上が今回の決定に懐疑的な反応を示しているようで、「これは危険な賭けだ」という声もあります。
さて、エルサルバドルにおけるビットコインの法廷通貨化は、MMT(現代貨幣理論)にも関わる実に興味深い話です。
MMTは、我が日本国をはじめ米国、英国、カナダなどがそうであるように、変動為替相場制の独自通貨国に財政的制約はなくデフォルト(債務不履行)はあり得ない、としています。
変動為替相場制の独自通貨国になるには、国内需要を十分に充たすことができる国内供給能力(ヒト・モノ・技術)が必要です。
一方、国内の供給能力に乏しい国は常に輸入超過に陥ってしまうため、固定為替相場制を採用するか、もしくはひたすら為替が暴落していくのを耐えるしかありません。
そのため実質的に独自通貨を発行することができない途上国は、購買力を維持するために例えば米ドルなどを法定通貨として採用するほかないわけです。
現に、エルサルバドル政府は「コロン(サルバドール・コロン)」という独自通貨を発行していますが、ほぼ流通していません。
実際に流通しているのは、まさに「米ドル」です。
要するに、コロンには購買力がないので、エルサルバドル国民は米ドルをかき集めて使用するしかないわけです。
このように根本的な問題は、国内の供給能力が乏しい状態、即ちひたすら輸入に頼らないと国民が生きていけないという状況にあります。
であればこそ、エルサルバドル政府の本来の役割は国内の供給能力を引き上げることにあるわけですが、なぜか資産価値として不安定なビットコインを法廷通貨に加えるという。
仮想とはいえ、その価値が常に乱高下する不安定通貨を法定通貨にするのは無理があると思います。
法定通貨として認めるということは、エルサルバドル国民がビットコインで税金を支払うことをも認めるということでしょうから、徴税したビットコインが一転して大暴落したらどうするのでしょうか。
その場合、自国通貨建てで国債を発行できないエルサルバドル政府には実に大きな痛手となりましょう。
そもそもMMT的にも、その発行上限に制約があるビットコインは、そして購買力が極度に不安定なビットコインは、どうみても法定通貨には不向きです。
早晩、撤回されることになると思います。