為政者の誤解が国を亡ぼす

為政者の誤解が国を亡ぼす

ピーターソン国際経済研究所シニアフェローのチャド・ボウン氏とダートマス大学経済学教授のダグラス・アーウィン氏は共に、4月号の『フォーリン・アフェアーズ』において「(トランプ米政権の)支離滅裂な関税政策は壊滅的な間違いだ」と痛烈に批判しています。

「関税が、彼(トランプ米大統領)が懸念する課題に対処するための最善の策であることはほとんどない」と。

たしかに、トランプ米大統領の関税措置は、いかにも思いつきで非常識な言動の多い個性的大統領による理不尽な政策に見えなくもない。

一方、識者のなかには「米国の関税措置は意外と侮ることができない実に戦略的なものである」と指摘する意見もありますが、果たしてどうか。

ただ、一つだけ確実に言えることは、トランプ米大統領が大きな誤解をされていたことは確かです。

1月の大統領就任時の演説において、トランプ氏は関税について次のように述べています。

「(関税により)外国から巨額のカネが国庫に流れ込むことになる」と。

これは明らかな誤解で、関税を支払うのは米国内の輸入業者であって外国の輸出業者ではありません。

しかも、関税を払った国内の輸入業者は関税による値上げ分を当然のことながら販売価格に転嫁しますので、事実上、関税を負担するのは米国の国民(米国の消費者)です。

一般論として関税政策は、国内消費者の負担増を代償に、国内の生産者を保護し育成するために行います。

国外に生産拠点を持つ企業の競争条件が不利になるのは事実ですが、外国の企業が税金を納めるわけではありません。

ゆえに、関税によって外国から巨額のカネが国庫に流れ込むことはあり得ないわけですが、さすがの米大統領も今は誰かに窘められて理解を改めたことと思われます。

トランプ関税の政策論としての是非はともかく、政治家や官僚の「恥ずかしい誤解」が国策を誤らせることは特に珍しいことではありません。

わが国もそうです。

今なお、わが国の多くの政治家や官僚が持っている「政府債務を増やす国債発行は将来世代へのつけまわし…」という認識は、まさに恥ずかしき誤解であり国策を大きく誤らせています。

上のグラフのとおり、明治政府が発足して以降、わが国の政府債務は既に4000万倍以上にまで膨れ上がっていますが、日本政府は一向に破綻(デフォルト)していません。

現在の日本国民の生活を苦しめているのは政府が国債を発行しカネを使わないからであって、今を生きる私たちが明治・大正・昭和の人たちがつくった借金を返済しているからではありません。

むしろ、明治・大正・昭和の人たちが借金をして作ってくれた各種インフラのお陰様により、かろうじて経済活動を行うことができています。

そのインフラも、平成以降の緊縮財政(国債発行抑制政策)によって今やボロボロです。

為政者の恥ずかしい誤解により、国民生活が破壊され国が滅ぼされるのはまっぴらごめんです。