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議会報告 政治・経済

信長のいない安土の不幸2016/12/02    

1576(天正4)年、織田信長は現在の滋賀県近江八幡市の琵琶湖のほとりに、それまでにはない巨大な天守を含む大規模城郭の築城にとりかかりました。

そうです。あの安土城です。

時代を遡ること1567(永禄10)年、美濃攻略に成功した信長はその地を岐阜と改め、なんとその翌年には将軍義明を擁して電撃的な上洛(畿内平定)も果たしました。

上洛に成功しつつも、信長は京都にはけっして居城(本拠地となる住まい)をつくらない

平清盛や豊臣秀吉がそうであったように、京都に居城を構えて住んでしまうと朝廷に取り込まれたり、あるいは一族・家臣団が公家化したりと何かとマイナス面が大きかったからでしょう。

なので、その当時の信長の政治戦略上の要衝であった安土山に居城を築かせたわけです。

その安土城は、本能寺の変の直後に焼け落ちてそのまま廃城同然になっていました。

現在は、当時の石垣や階段、あるいは天守や御殿の礎石など信長時代の面影をかろうじて残しつつ国指定の特別史跡になっていて、信長が城内に建立した摠見寺によって安土山一帯を管理しています。

因みに、仏教勢力とあれだけ熾烈な抗争をくりひろげた信長が、なぜ城内にお寺を建立したのか意外に思われる方が多いかもしれませんが、実は何ら不思議ではないのです。

信長が敵対したのは、あくまでも武装勢力(政治勢力)であって、宗教的思想や信仰ではなかったからです。

信長に敵対した宗教勢力は、僧兵を養い鉄砲を備えて自ら軍事行動を展開する一方で、戦を専らとする武将にも力を貸し、あまつさえ関所や座を支配し、寺領から税金まで徴収していました。

当時の領民は大変だったことでしょう。

なにせそこに住んでいるだけで、大名(武家)、寺社、朝廷、それぞれの権門ごとに税金を納めなければならない三重統治社会だったわけですから。

であるからこそ信長は武家による一元的統治(天下布武)を目指したのです。

延暦寺にしても、本願寺にしても、信長にとっては「天下布武の行く手を阻み、宗教者としての分際もわきまえず、酒を煽り、肉を食らい、軍事力を背景に税を貪る政治勢力」でしかなかったのです。

なので信長は、比叡山を焼き討ちにしても伝教大師最澄以来の信仰を否定せず、一向門徒を殺戮しても親鸞聖人以来の信仰は認めていたのです。

安土城の天守閣の内装には、仏教思想に基づく絵画が描かれていたのはそのためです。

さて、その安土城のある滋賀県の近江八幡市議会において、ちょっとした問題が発生しています。

その問題とは、安土城址に訪れる観光客むけの駐車場問題です。

安土山一帯を管理している摠見寺が観光客むけに用意している駐車場が無料であるのに対し、近江八幡市が整備した駐車場が有料なのだそうです。

もともと、近江八幡市が整備した駐車場は無料だったのですが、なんでも2011(平成23)年以降、NHK大河ドラマや歴女ブームをきっかけに来場客が急増するようになり、混雑時に車を誘導するなど駐車場を管理する費用を賄うため、それまで無料だった駐車場を有料にしたとのことです。

それによって、観光客は安土山の入山料(700円)を払い、加えて市営駐車場の料金(510円)を払うようになりました。

来場者負担の軽減を考えた摠見寺は、今から3年前に、有料である市営駐車場の道路を挟んだ真向かいに無料の駐車場を用意しました。

結果、市営駐車場は赤字になりました。

その赤字分をどこからか捻出しなければならない、と近江八幡市は次なる一手を考えました。(その背景には、常に収支は均衡していなければならない、という行政の『財政均衡思想』があります)

その一手とは、駐車場と安土城址入口の間にある無料ガイダンス施設(その周辺で唯一のトイレが設置されています)を有料化して賄うことです。

近江八幡市によれば、有料駐車場の維持管理には年間560万円程度かかるのだとか。

近江八幡市の市長は、今年3月に、そのガイダンス施設のトイレ使用料として100円(市営駐車場の利用者からはとらない)を徴収する条例案を議会に提出しました。

ところが市議会から、「トイレ利用におカネを取るのはいかがなものか」「市営駐車場利用者をどのように見分けるのか」などの批判があり一旦は取り下げるかたちとなったようです。

ついで市長は、市営駐車場を無料化したうえでガイダンス施設使用料(トイレ込み)として200円を徴収するという新たな条例案を今月(12月)開会予定の市議会に提出しようとしているとのこと。

面白いですね。

ここに居城を構えた信長は、安土の城下に「ヒト」「カネ」「モノ」「情報」を集めるために、かの有名な楽市楽座を行うなど、様々な無税化措置をとりました。

そして「領民から税金(カネ)を貪る宗教勢力はけしからん」とも・・・

時代は変わって、財政収支の均衡を常とするネオリベ(新自由主義者)、そして新古典派経済学に基づく株主資本主義、あるいはグローバリズムが幅を利かせている世の中です。

市長は「カネを取る」といい、お寺が「無料だ」と言っています。

お寺が「無料だ」というのはわかりますが、なぜ市長が。。。

市長によれば、「この地区には土産物など観光客がおカネを落とすところが何もない。市民への還元がないのに税金を使うのはいかがなものか」ということです。

ちょっと待て、観光客がおカネを落とすインフラを整備することこそが、あなた方為政者(国・県・市)のお役目だろうに。

そうすれば近江八幡市民の所得は増え税収も上がる

整備されたインフラは、観光のみならず地場産業の生産性向上にも資する。

それもまた市民所得の向上と税収増につながります。

かの信長は楽市楽座などの制度インフラだけでなく、道路や橋や治水などのハード系インフラの整備の重要性をも認識していました。

現に当時ではめずらしい幅員6メートルの街道も整備したし橋もつくりました。

沿道には旅人が日陰で休めるように大きな松の木を街路樹として植えました。

そうすることで領民の所得が増え、国のモノやサービスをつくる力、即ち生産力(国力)が強化されるからです。

そうしたインフラ整備を怠り、ひたすらに行政の収支均衡を目的に、庶民に負担増だけを押し付けるような愚政を行うことなどありませんでした。

財政均衡主義を常とする限り、インフラ整備にしても技術開発にしても新たな事業展開を行うことができません。

安土城築城から440年、安土の主が信長でないことが不幸です。